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2018年10月、James P. Allison 博士、本庶 佑 博士の両氏はノーベル生理学・医学賞の受賞者に選出されました。受賞理由は「免疫を抑える仕組みの阻害によるがん治療の発見」となります※1。
がん免疫療法は1890年代のColeyワクチンに始まり、様々な研究が行われてきましたが、免疫系を直接活性化させる従来の免疫療法の多くは、成功してきたとは言えませんでした(表1)。しかし、免疫の活性化にブレーキを掛ける機構「免疫チェックポイント」を阻害する、従来の免疫療法とは逆転の発想の治療法は、第Ⅰ相試験で末期がん患者への投与にもかかわらず臨床効果を示し、第Ⅱ相、第Ⅲ相試験でもその効果が確認されました。懐疑的にみられていたがん免疫療法はパラダイムシフトを迎えました※2,3。
チェックポイント分子「CTLA-4」と「PD-1」、それぞれの発見とがん治療への応用、これからのがん免疫療法についてご紹介します。
1890~ | Coley 「がんに対する免疫応答」の存在を確認、Coleyワクチン |
1950~ | 腫瘍抗原の存在が示唆される/Burnetら 「免疫監視機構」を提唱/Oldら マウスでBCGの腫瘍増殖抑制作用を報告 |
1970~ | 1973 Steinmanら 「樹状細胞」発見/1975 KöhlerとMilstein モノクローナル抗体の作成方法確立 |
1980~ | サイトカイン療法、LAK療法、TIL療法などの養子免疫療法の開発 |
1987 | Brunetら CTLA-4の発見 |
1991 | Boonら ヒト悪性黒色腫の抗原として「MAGE-1」を同定 |
1992 | 本庶・石田ら PD-1分子の発見 |
1994 | Bluestoneら CTLA-4をT細胞を不活性化する因子として報告 |
1995 | Bluestoneら CTLA-4 KOマウスにおけるリンパ球の増殖や全身性の炎症を報告 |
1996 | Allisonら 抗CTLA-4抗体によるがん退縮効果をマウスで報告 |
1999 | 西村・岡崎ら PD-1による免疫寛容制御機構を報告 |
2001 | Schreiberら 「免疫編集機構」を提唱 |
2002 | 岩井ら 抗PD-L1抗体によるがん細胞の増殖抑制作用をマウスで報告/Dunnら 「がん免疫逃避機構」を提唱 |
CTLA-4は細胞傷害性T細胞上に発現する分子として1987年にBrunetらにより発見されました。T細胞の活性化にはMHC/TCR経路およびB7/CD28経路による共刺激が必要であることが突き止められる一方で、Bluestoneらによって、CTLA-4はT細胞を不活性化する分子であること、KOマウスでリンパ球の増殖や全身性の炎症が起きることが報告されましたが、がん治療への応用は目指されていませんでした※4,5。
TCRやT細胞活性化の研究を続けてきたAllisonらは、CTLA-4がCD28と正反対の抑制性シグナルを伝えることに注目し、担がんマウスに対し、抗CTLA-4抗体を投与するがん治療の実験を行いました。初めの実験で完璧な結果が得られたことから、Allisonはクリスマス休暇を犠牲にして追実験を始めたものの、結果が思わしくなく、結局休暇を取ったそうです。しかし、4日後にAllisonが戻るとがんの縮小が始まっており、最終的にがんは消滅しました※6。
Allisonらは、CTLA-4阻害薬による初のがん免疫療法を1996年にScience誌で報告しています※7。
PD-1は1992年に本庶研究室の石田らによって単離、同定されましたが、当初はがん治療ではなく、アポトーシスに関連する分子として検証が進められていました。機能解明を進める中、京都大学の湊研究室との協力でKOマウスにおける全身性エリテマトーデス(SLE)様の自己免疫性の炎症が発見され、PD-1が免疫反応のブレーキ役であることが明らかとなりました。さらに受容体分子であるPD-1のリガンドとしてPD-L1、PD-L2を同定し、また、そのブレーキを外すことにより免疫系が活性化することを発見したため、がん治療への応用が試みられ、抗腫瘍効果が示されました。PD-1/PD-L1経路の阻害によるがん免疫療法は2002年にPNAS誌に報告されています※8。
抑えられていた免疫の力を解き放つ、これらの新しいがん免疫療法の発見は、がんにおける“penicillin moment”※6と称されました。
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法は、様々ながん腫で試験が行われています。すでに承認されたがん腫では、腫瘍の縮小だけでなく生存期間の延長が認められたことから、より早期での施行が始められています※9。
現在、がん治療の第4の柱と位置付けられたがん免疫療法は、新薬の開発だけでなく、抗PD-1抗体を中心とした併用療法の開発、研究が行われており、PD-1/PD-L1阻害薬を用いた併用療法の試験は1000を超えています(2017年末時点)※9。2018年のノーベル賞受賞研究である抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体を組み合わせた臨床試験は、数多く行われています(図1)※9。
がん免疫療法の進展により、がんという病の認識すら変えていくことが期待されています。
Tang J, et al. Ann Oncol. 2018; 29(1): 84-91より作成
2018年12月作成